はじめに

こんにちは、ぺぐです!
1980年代、日本は次世代の情報処理技術の開発に向けた壮大なプロジェクトを立ち上げました。それが「第5世代コンピュータプロジェクト」です。
当時、世界のコンピュータ技術は飛躍的に進化していましたが、日本はさらにその先を見据え、人工知能(AI)や自然言語処理などの高度な技術を取り入れた新しいコンピュータの実現を目指しました。
今から40年以上も昔、日本は本気で世界を獲りにこうという意気込みで取り組んでいたようです。
どのようなプロジェクトだったのか、また成果は何なのか、失敗した要因は?詳しくみていきましょう。
メイントピック
第5世代コンピュータプロジェクトとは?
第5世代コンピュータは、従来のコンピュータとは異なる新しいパラダイムを持つものでした。それは単なる高速化や大容量化ではなく、人間のように考え、学び、推論する能力を持つコンピュータを目指すものでした。
このため、人工知能(AI)、自然言語処理、論理プログラミング、並列処理などの技術が重視されました。

コンピュータ、AI技術の発展における「並列処理」の重要性については別の記事で紹介する予定だよ!
第5世代コンピューターの開発ではどのようなことが議論・研究されていたのか、見ていきましょう。
第5世代コンピュータ:プロジェクトの主要素
- 人工知能(AI): 第5世代コンピュータは、AIを中核技術として位置づけました。これにより、コンピュータが自己学習や推論を行うことが期待されました。
- 自然言語処理: 人間の言葉を理解し、自然な形でコミュニケーションを取る能力が求められました。これにより、コンピュータと人間のインターフェースが大幅に改善されることを目指しました。
- 論理プログラミング: 論理的な推論を行うためのプログラミング言語であるPrologが重要視されました。
- 並列処理: 複数のプロセッサを同時に動作させ、高速な計算を実現する技術が開発されました。

現代の生成AI開発の流れにめっちゃ関係あることやってる!
第5世代コンピュータ:プロジェクトの経緯と目的
第5世代コンピュータプロジェクトは、1980年代初頭に日本の通商産業省(MITI)が主導で始まりました。目的は、日本が世界のコンピュータ技術のリーダーとなることでした。当時、アメリカやソ連との技術競争が激化しており、日本は特に人工知能と並列処理技術の分野で先進的なコンピュータを開発し、産業競争力を強化しようとしました。
プロジェクトには、日本の工業技術院(MITI)や主要な企業であるNEC、日立製作所、富士通、三菱電機、沖電気工業、シャープなどが参加しました。しかし、プロジェクトが期待されたほどの成果を上げることはできず、技術的な課題も多く、目標に対して十分な成果を上げることはできませんでしたが、AIや自然言語処理などの分野において多くの知見が得られました。
このプロジェクトの研究成果は、その後の技術開発に大きな影響を与え、現在のAI技術の基礎となっています。
例えば、下記のようなものが「成果」として認識されています。
並列処理技術の進展
並列処理は、複数の処理を同時に実行する技術であり、第5世代コンピュータプロジェクトではこの分野において重要な研究が行われました。特に、並列処理アーキテクチャの設計と実装において大きな進歩がありました。
Prologの普及
プロジェクトの一環として、論理プログラミング言語であるPrologが広く利用されるようになりました。Prologは人工知能研究において重要なツールであり、その普及はAI技術の発展に寄与しました。

Prologとは、Programming in Logic(論理プログラミング)から命名されたらしいよ!
自然言語処理の研究
自然言語処理(NLP)の分野でも重要な研究が行われ、言語理解や機械翻訳の技術が進展しました。これにより、コンピュータが人間の言葉を理解し、対話する能力が向上しました。
知識ベースシステムの発展
知識ベースシステムとは、特定の分野に関する知識を蓄積し、それを基に推論を行うシステムです。
第5世代コンピュータプロジェクトでは、この分野での研究が進められ、エキスパートシステムなどの応用が広がりました。

エキスパートシステムといえば、まさに第二次AIブームのメイントピック。
結局知識を膨大に詰め込んでも現実世界の問題に解答することは(正答率的に)難しく、かつ膨大な知識を与えるということがそもそもめっちゃむずいって話だよね。
国際的な研究開発への刺激
このプロジェクトは国際的にも大きな影響を与え、多くの国が日本の取り組みに触発されてAI研究を加速させました。結果として、世界的なAI技術の進展が促進されました。

まあ、これは日本としてはあんまり嬉しいことではないか?
そもそも論:「第5世代」ってなんやねん。
普通に生活していたら、コンピュータに世代があるとは意識しないですよね。
2024年現在のコンピュータ技術は、特定の「世代」としては明確に分類されていないのが実情ですが、歴史的にはこのように分類するようです。
第1世代(1940年代後半〜1950年代): 真空管を使用
第2世代(1950年代後半〜1960年代): トランジスタを使用
第3世代(1960年代後半〜1970年代): 集積回路(IC)を使用
第4世代(1970年代〜現在): 超大型集積回路(VLSI)を使用
第5世代コンピュータプロジェクトは、1980年代から1990年代初頭にかけて行われましたが、明確な「第5世代」として一般に認識されることはありませんでした。
なぜ失敗したのか? (そもそも失敗と呼んでいいかは微妙)
技術的な限界
第5世代コンピュータプロジェクトは、多くの革新的な技術を導入することを目指していましたが、当時の技術水準ではそれを実現することが困難でした。特に、人工知能(AI)や自然言語処理の分野では、理論的な基盤は存在していたものの、それを実際に動作するシステムとして構築するには、計算能力やアルゴリズムの進化が追いついていませんでした。
また、半導体技術の進展はコンピュータの性能向上に直結していますが、第5世代コンピュータプロジェクトの当時、半導体の微細化技術は現在ほど進んでおらず、トランジスタの集積度や動作速度には限界がありました。このため、計算能力やメモリの容量が制約され、複雑な処理を行うには不十分でした。

俺たちは早すぎたんだ…。by某海賊王
ちなみに、当時の半導体のスペックは↓↓
1980年代初頭:プロセス技術は約1000nm(1μm)程度。
1980年代中期:プロセス技術は約800nmから600nmに縮小。
1980年代後期:プロセス技術は約500nmから300nmにまで進化。
2020年代:最先端の半導体プロセス技術は3nmや2nm。
プロジェクト期間中にもどんどん進化はしていたけど、現在と比べると…って感じですね。
人工知能(AI)技術の未成熟性
AI技術は、第5世代コンピュータの核心技術の一つでしたが、当時のAIアルゴリズムや理論はまだ初期段階にありました。
機械学習やディープラーニングの技術は現在ほど発展しておらず、AIが実用的なレベルで機能するには、多くの技術的な課題が残っていました。
特に、自然言語処理の分野では、言語モデルの精度や性能が低く、実用的な応用には遠いものでした。
ソフトウェアの問題・システム統合の難しさ
第5世代コンピュータは、新しいプログラミング言語やソフトウェア技術の導入も目指していましたが、これらの開発が予想以上に困難であったため、プロジェクト全体の進行に遅れが生じました。
特に、論理プログラミング言語であるPrologを用いた開発は、従来の手続き型プログラミングとは異なる考え方を必要とし、多くの技術者が新しいパラダイムに適応するのに苦労しました。
多くの革新的な技術を統合して一つのシステムとして動作させることは、予想以上に難しい課題でした。個々の技術要素はそれぞれの分野で進歩を遂げていたものの、それらを一体化して効果的に機能させるための統合技術が未熟でした。その結果、システム全体の性能が期待通りに発揮されないことが多々ありました。
実際の応用と理論、過剰な期待とのギャップ
理論的には優れているとされる技術でも、実際の応用となると様々な問題が生じました。例えば、AIや自然言語処理技術は、特定の条件下では優れた性能を発揮するものの、実世界の複雑で多様な状況に対応するには多くの問題が残っていました。
これにより、期待された実用化には至らなかったのです。
プロジェクトには大きな期待が寄せられていましたが、その期待が現実の技術力と一致していなかったことも失敗の要因です。プロジェクトの目標は非常に高く設定されており、短期間でそれを達成するのは困難でした。特に、AIが人間と同等の知能を持つという目標は、当時の技術的な実現性を大きく超えていました。
競争と環境の変化
1980年代から1990年代にかけて、コンピュータ技術の分野では急速な進歩が続いていました。この間、他国や他の企業も次々と新しい技術を開発し、市場環境が急速に変化しました。日本の第5世代コンピュータプロジェクトは、この急速な変化に対応するのが難しくなり、競争力を失ってしまいました。
財政的な制約
プロジェクトの継続には莫大な資金が必要でしたが、期待された成果が上がらない中で、予算の確保が難しくなりました。資金不足により、プロジェクトの一部が縮小されたり、計画が変更されたりすることがありました。

ヒント:バブル崩壊
結論
第5世代コンピュータプロジェクトの失敗は、技術的な限界、過剰な期待と現実のギャップ、プロジェクト管理の問題、競争と環境の変化、財政的な制約など、複数の要因から目立った大きな成果がなく終わってしまったという評価もあります。
しかしながら、当時の研究や情熱・取り組みは非常に先進的であり、現在のAI研究の流れにもつながるものが多くあるのも事実です。

40年以上前のプロジェクトでも、現在でも野心的な取り組みと評価されるものが多いみたいだね。
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